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資生堂、赤字転落からの急騰

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分析をしていくよ
積み上げ棒グラフ(売上高と営業利益)

資生堂の売上高と純利益の推移

単位:億円

2022.3
2022.6
2022.9
2022.12
2023.3
2023.6
2023.9
2023.12
2024.3
2024.6
2024.9
2024.12
資生堂 株価急騰の背景分析レポート

資生堂 株価急騰の背景分析レポート

1. はじめに

2025年2月18日に2361円の年初来安値水準を付けた資生堂(4911)の株価は、その後急反発し2月26日には2796円まで上昇しました(約18%の上昇)。この短期間での株価急騰の背景には、決算内容や業績見通し、投資家・市場の反応、業績改善策と外部環境の追い風、競合他社との比較、さらにはマクロ経済要因と投資家心理が複合的に作用しています。本レポートでは、これらの要因について詳しく分析し、資生堂株の動向と今後の展望を考察します。

2. 直近の決算内容と業績見通し

2024年12月期の業績概要(2月10日発表):
資生堂が発表した2024年12月期連結決算は、売上高9,905億円(前期比+1.8%)と増収ながら、最終損益は▲108億円の赤字となりました。前期(2023年)の最終利益217億円の黒字から一転、4年ぶりの赤字計上です。主要因は特殊要因によるもので、2021年に譲渡した「ベアミネラル」「ローラ メルシエ」「バクサム」の3ブランドの売却代金回収不能リスクに備え、128億円の引当金を計上したことによるものです。この引当金計上は一時的かつ非現金の要因であり、同社は「特別な財務悪化ではない」と説明しています。実際、引当金が無ければ最終利益は約20億円の黒字であり、それでも前期の10分の1程度にとどまります。営業利益も構造改革費用などの非経常項目▲288億円が響き75億7500万円(前期比▲73%)と大幅減益となりました。一方、非経常要因を除いたコア営業利益は363億5900万円(前期比▲8.7%)で、2024年11月時点の会社計画(350億円)を14億円上回り計画超過で着地しました。

資生堂の地域別動向を見ると、日本事業は売上高2,837億7600万円(前年比+9.2%、為替中立ベース+9.5%)と大きく伸長しました。高価格帯スキンケア「SHISEIDO」のバイタルパーフェクションシリーズがグローバルで好調だったほか、“ファンデーション美容液”といったスキンケア機能を持つベースメイク製品が引き続き人気を牽引し、新規・若年層の開拓に貢献しました。高級ラインのクレ・ド・ポー ボーテではアイコン美容液のリニューアルが奏功し、ミドル価格帯のエリクシールやdプログラムも年間で2桁成長するなど、選択と集中によるブランド強化策が実を結んでいます。

一方、中国事業は売上高2,499億5200万円で前年比+0.8%(為替中立▲4.6%)と依然低調でした。中国本土の高級化粧品需要が伸び悩み、同社の中国・トラベルリテール(免税店)事業は2024年度に売上1,078億円(前年比▲20%)と大幅減速しています。特に「中国のハワイ」と呼ばれる海南島の免税店売上は前年比30%以上減少し、本土の店舗売上も減少しました。こうした中でもナーズ(NARS)のメイクアップ製品や日焼け止めのアネッサ(ANESSA)、クレ・ド・ポー ボーテなどが下支えし、中国市場で踏ん張りました。また欧州事業も好調で、日本・欧州の伸長が中国・米州の減収を補う構図となりました。

(注:コア営業利益=構造改革費や減損等の非経常項目を除いた営業利益。2024年12月期の非経常損失は約288億円)

2023年12月期 2024年12月期 実績 2024年12月期 会社予想(11月修正後) 2025年12月期 見通し
売上高 9,730億円 9,905億円(+1.8%) 9,900億円 9,950億円(+0.4%)
コア営業利益 398億円 364億円(▲8.7%) 350億円 365億円(+0.4%)
親会社株主に帰属する当期純利益 217億円 ▲108億円 60億円 60億円(黒字転換)
年間一株配当 60円 40円(減配) 60円(従来計画) 40円(維持)

上表のとおり、2024年12月期実績は概ね11月時点の修正予想に沿った売上・コア営業利益水準でしたが、最終利益は60億円の黒字予想から▲108億円の赤字へとサプライズ的に悪化しました。これは前述の引当金計上によるもので、会社側も「一過性」と強調しています。2025年12月期の会社予想については、売上高9,950億円(前年比+0.4%)と横ばい圏ながら最終利益60億円の黒字転換を見込んでいます。営業利益は135億円(前年比+78%)と大幅増益を計画し、構造改革の効果で採算改善を図る方針です。しかしながら売上成長率は実質ベースで+4%程度(中国・免税を除くと+10%台前半)と慎重な見通しで、中国市場の不透明感を反映した保守的な計画と言えます。

なお、配当は2024年に年間60円から40円へ減配した水準(年間40円)を2025年も維持する方針です。業績低迷期において財務体質強化と成長投資を優先するため、配当水準を引き下げつつ長期的な総株主還元の最大化を目指すとしています。

3. 決算発表後の市場の反応とアナリスト評価

市場の反応(株価の動き):
2024年12月期決算が発表された2月10日以降、資生堂株は当初売り優勢で推移しました。最終赤字転落や減配という内容を嫌気し、2月中旬にかけて株価は下落基調となり、2月18日には2361円まで売り込まれました。しかしその後、一転して買い戻しや見直しの動きが強まります。転機の一つとなったのが、2月19日に英国系の大手ファンドであるインディペンデント・フランチャイズ・パートナーズ(Independent Franchise Partners)社が資生堂株の5%超を取得したとの大量保有報告書提出が明らかになったことです。このニュースを材料視した買いが集まり、同日株価は前日比+323円高の2684円まで急騰し、翌20日も高値圏で推移しました。独立系の著名運用会社による substantial な持株比率の開示は、資生堂の企業価値向上に対する期待感や、場合によっては株主提案を含むアクティブな関与の可能性を示唆するものとして市場にポジティブに受け止められました。

さらにちょうど同時期、国内消費指標の改善も追い風となりました。2月19日には日本百貨店協会から1月の全国百貨店売上高が発表され、化粧品の売上高が前年同月比+7.5%と3か月連続の高い伸びを示したほか、インバウンド(訪日外国人)による売上が+54.9%と急増したことが明らかになりました。春節休暇による訪日客需要の増加もあり、化粧品市場の回復傾向が示唆されたことで、資生堂を含む国内化粧品株全般に見直し買いが入っています。実際、資生堂株だけでなく同業のコーセーや花王なども同日に上昇しており、市場全体として化粧品セクターへの期待が強まった状況です。

アナリストの評価・目標株価の動向:
証券各社の決算評価は総じて慎重ながら、中長期の収益改善に期待を残す内容でした。大手証券の多くは投資判断(レーティング)を据え置きとする一方で、業績予想の下方修正や目標株価の見直しを行っています。例えば、日系大手証券は2月13日時点で投資判断「中立」(3)を維持しつつ、目標株価を2,530円から2,600円へ小幅に引き上げました。また米系大手証券は決算直後の2月10日時点で「中立」継続、目標株価を2,800円から2,700円に引き下げています。一方、欧州系証券は「強気(アウトパフォーム)」評価を据え置きつつ、目標株価を3,700円から2,900円へ大きく切り下げました。このように短期業績悪化を踏まえた目標株価レンジの切り下げは見られたものの、強気姿勢自体を撤回する動きは限定的です。

アナリストコンセンサスは決算後も「中立」見通しに留まり、目標株価コンセンサスは概ね2,800円前後となっています。実際、2月13日時点でコンセンサス目標株価は2,814円(アナリスト9人平均)と報じられており、2月26日の株価2,796円はこの水準にほぼ達しました。決算数値自体は最終赤字への転落というネガティブサプライズがあったものの、「引当金さえ除けば黒字維持」「コア営業利益は計画並み」と評価できる部分もあり、アナリストは構造改革の行方と中国事業の底打ち時期に注目しつつ、中立スタンスで今後を見極める姿勢です。

また一部では、海外投資家の参入(前述の独立系ファンドの5%超取得)や資生堂のガバナンス改革の進展(社外取締役の充実やボード改革など)を好感し、中長期的な企業価値向上余地に言及する声もあります。総じて市場の受け止めは、「短期業績の低迷は織り込み済みだが、改革による収益回復とインバウンド需要など追い風に期待」というスタンスに変化しつつあると言えます。

4. 株価上昇を支えた具体的要因

上記の決算・外部評価を踏まえ、資生堂株の急上昇につながった具体的な要因を整理すると、以下のようになります。

(1) 業績改善への期待と構造改革の進展

2024年12月期は最終赤字でしたが、その要因は一時的であり、コア事業の収益力は維持されています。特に国内では注力ブランド戦略が奏功し、高収益なスキンケア製品を中心に売上が伸長しました。加えて、2025年には世界規模での構造改革を断行する計画が示されています。藤原CEOは「2025年中にグローバルな構造改革アクションを完遂し、2026年12月期にコア営業利益率7%を実現する」と表明しており、既に日本で約1500人の早期退職実施や中国の不採算店舗閉鎖などコスト構造の抜本見直しに着手しています。2025年には追加で230億円規模の改革関連費用を計上し、人員削減や店舗削減、自動化投資等による効率化で、2026年には年間250億円のコスト削減効果を見込む計画です。

このような断行的な改革姿勢は、中長期の利益率改善につながるとの期待から投資家に好感されました。実際、営業利益の市場予想も決算後に上方修正され始めており、決算発表直後に資生堂の営業利益コンセンサスが従来予想を18%近く上回る着地だったことも報じられています。コスト削減と収益力強化へのコミットメントが、「業績ボトムアウト」期待を醸成した点が株価押上げの一因です。

(2) 新製品・重点ブランドによる売上拡大

業績回復の裏付けとして、商品のヒットやトレンドの取り込みも重要です。前述のように、日本・欧州市場で「SHISEIDO」ブランドのスキンケア(例:バイタルパーフェクション)や、“ファンデーション美容液”と呼ばれるスキンケア機能付きファンデが人気を博しました。また高価格帯のClé de Peau BeautéやエイジングケアブランドのELIXIR、敏感肌向けdプログラムなども軒並み高成長を遂げ、ブランドポートフォリオ強化の成果が現れています。

資生堂は近年「Skin Beauty」に経営資源を集中し、スキンケア中心の高付加価値製品に注力する戦略を取っています。その結果、コロナ禍を経て世界的に高まったスキンケア需要や「美肌志向」のトレンドを捉え、単価上昇と売上増加に寄与しました。例えば、日本の化粧品市場では機能性向上に伴う平均単価上昇がみられ、資生堂の高機能・高価格帯コスメの展開はこの追い風に乗ったと言えます。さらに2023年には米スキンケアブランド“Dr. Dennis Gross”の買収も行い製品ポートフォリオを拡充しており、海外高付加価値ブランドとのシナジーも期待されます。新製品投入と重点ブランドの強化によって「売上の質」が向上しつつある点は、投資家が業績底打ちを判断する材料となりました。

(3) 外部環境の好転(特にインバウンド需要と為替)

外部要因として大きかったのが、中国を含むインバウンド(訪日観光客)需要の回復です。コロナ後に訪日客数は急増しており、特に円安の追い風もあって外国人旅行者の消費額が拡大しています。2024年は中国からの団体旅行解禁が遅れたものの、個人旅行客や他のアジア圏からの観光客が増加し、日本の百貨店における免税売上は飛躍的に伸びました。中国人観光客の一人当たり購買額も約13万円と他国を圧倒的に上回っており、高級化粧品の主要顧客として存在感を示しています。資生堂は訪日客向けの商品展開・マーケティング(免税店限定品や多言語SNS発信など)を強化しており、インバウンド消費の増加が国内売上を大きく押し上げる構造になっています。

さらに為替相場(円安)も追い風です。2024年通期の平均為替レートは1ドル=151.5円と円安傾向で、これが海外売上の円換算額を押し上げました。実質ベースでは売上▲1%でも円安効果で報告ベース+1.8%となったほどで、円安メリットは無視できません。また円安は訪日旅行を割安に感じさせる効果もあり、観光需要増につながっています。足元では1ドル=145円程度への円高戻しを会社計画は想定していますが、仮に再び円が下落すれば更なる上振れ余地ともなりえます。原材料コスト上昇など円安・インフレの負の側面はあるものの、資生堂は2023年前後にかけて積極的な価格改定を実施しコスト増を転嫁する戦略も取ってきました。その結果、物価高による消費冷え込みは限定的で、むしろ値上げによる売上押上げ効果が出ています。このように外部環境は同社にプラス材料が多く、株価上昇を支える要因となりました。

(4) 美容業界の潮流(高級化粧品需要の拡大)

パンデミック後の美容業界では「リベンジ消費」とも言える高額商品の売れ行きが世界的に目立っています。マスク着用の緩和でメイク需要が戻り、加えて在宅時間の増加でスキンケアへの関心が高まったことで、美容ニーズが質・量ともに拡大しました。特にプレミアムコスメ市場の成長は著しく、ロレアルやエスティローダーなどグローバル大手も高価格帯ブランドの強化に注力しています。資生堂は前述の通りプレミアム領域に経営資源を集中しており、このトレンドと方向性が合致しました。

実際、高価格帯コスメ市場は単価上昇と富裕層・中間層の消費意欲に支えられ、堅調な拡大が見込まれています。ある調査では、日本の化粧品市場規模は2023年度を100とすると2028年度に110%以上になると予測されており、年率にして2%程度の安定成長が続く見通しです。中でもスキンケアやフレグランス、高機能メイクアップなど付加価値の高いカテゴリが市場をリードするとされます。資生堂はフレグランス分野では資生堂パルファムやイタリアのドゥーブル・クイル社買収(「ドルチェ&ガッバーナ」の香水ライセンス獲得)なども進めており、高価格帯トレンドに乗った製品展開を強めています。こうした業界の追い風も、投資家に資生堂の将来成長余地を意識させ、株価を押し上げる一因となりました。

以上のように、内部の改革と成長施策、そして外部環境の改善が相まって「業績は底を打ち反転に向かう」との見方が広がりつつあります。その結果が2月後半の株価急伸として現れたと言えるでしょう。

5. 競合他社との比較 – 資生堂のポジションと優位性

資生堂の現状を理解するには、国内外の競合企業の動向と比較することも重要です。主要プレイヤーである仏ロレアル、米エスティローダーなどのグローバル勢や、国内競合の花王(カオウ)やポーラ・オルビスHD、コーセーといった企業の状況と照らし合わせてみます。

グローバル大手との比較(ロレアル、エスティローダーなど):
世界最大手ロレアルの2024年12月期は売上高434億8680万ユーロ(約6兆8274億円)と前年比+5.6%増収、営業利益86億8750万ユーロ(約1兆3640億円)で同比+6.7%増益と増収増益の好決算でした。営業利益率もついに20.0%に達し、過去最高を記録しています。全事業部門・全地域で成長しており、特にスキンケアを中心とする「ダーマトロジカルビューティ」部門が牽引、中国市場の低迷を他地域の好調が補う形でした。純利益も約1兆円規模(67億ユーロ、前年比+4.6%)にのぼり、規模・収益性で資生堂を大きく上回っています。

一方、エスティローダーは中国依存度が高いこともあり苦戦しています。2024年6月期(※同社は6月決算)実績では、売上高156億ドル(約2兆2千億円)で前年比▲2%減収、純利益は12億6千万ドル(約1800億円)と前年から減少しました。アジアでの高級化粧品需要の停滞やトラベルリテール不振が響いたためで、CEOの退任発表もなされるなど課題が浮き彫りになっています。つまり「中国ショック」という点では資生堂とエスティは共通していますが、資生堂の方が業績悪化幅が大きく出てしまった格好です。

また資生堂の営業利益率(コアベース3.7%)は、ロレアル(20%超)やエスティローダー(15%前後)などと比較すると依然見劣りします。これはグローバルブランド構築に向けた投資コストや中国事業比率の高さによるもので、今後の改革でどれだけ改善できるかが焦点となります。

国内他社との比較(花王、ポーラ・オルビス、コーセーなど):
国内化粧品市場では、資生堂と花王・コーセー・ポーラオルビスHDが「4強」として位置づけられます。花王は日用品も手がける複合企業ですが、近年は化粧品事業のテコ入れを進めています。2024年12月期第3四半期累計(1~9月)では、売上高1兆1900億円(前年同期比+5.7%)、営業利益1,010億円(+99.3%)と増収大幅増益を達成しました。ポーラ・オルビスHDは高級スキンケアのポーラと通販スキンケアのオルビスを傘下に持ちますが、2024年12月期は売上高1,704億円(前期比▲1.7%)と減収となり、インバウンド復調の恩恵を十分には享受できていません。コーセーも同様に、中国市場の低迷で「雪肌精」など一部ブランドが苦戦しましたが、欧米事業の拡大やデジタル施策により一定の成長を確保しています。

このように国内各社は明暗が分かれますが、総じて資生堂は国内市場ではトップクラスの成長を示した反面、海外とくに中国依存による傷が深かったと言えます。こうした比較から浮かび上がる資生堂の競争優位性は、まずグローバルなブランドポートフォリオを有し、広範な市場で展開している点が挙げられます。ロレアルやエスティローダーほどではないにせよ、資生堂は「SHISEIDO」「Clé de Peau Beauté」「NARS」「ELIXIR」など国際的に通用するブランドを多数抱えています。特にアジア市場でのブランド力は強く、中国人消費者の人気も高いことが強みです。実際、資生堂グループの売上の約40%が中国関連(中国国内+トラベルリテール)で占められており、アジア市場でのプレゼンスは競合他社を凌ぎます。

高級スキンケア分野の研究開発力も大きな特徴です。資生堂は140年以上の歴史を持ち、日本発の先端美容研究を強みとしています。近年も大阪大学との共同研究拠点を設立するなど皮膚科学やバイオテクノロジー領域への投資を続けており、それが「リンクルクリーム」のようなヒット商品や特許技術につながっています。さらに、資生堂は近年コーポレートガバナンス改革や経営体制の刷新にも力を入れており、社外取締役比率の引き上げや初の外国人・女性取締役登用、報酬制度の見直しなどを進める中で海外投資家からの注目度が高まっています。

これらを総合すると、資生堂の競争優位性は「強力なグローバルブランド群とアジア市場での地盤」「高級スキンケアを核とした商品力・研究力」「改革を厭わない経営姿勢」にあると考えられます。他方、課題としては「収益性でロレアル等に劣後」「大衆価格帯で国内シェアを競合に奪われた点」などが指摘されています。今後は高級路線を維持しつつデジタル活用等で若年層を取り込み、いかに失ったボリュームゾーンを補完するかが競争上のポイントとなるでしょう。

6. マクロ経済要因と投資家心理

資生堂株の動きに影響を与えたマクロ環境と投資家心理について整理します。

為替動向(円安トレンド):
前述の通り、円相場の動きは資生堂の業績に大きく影響します。2022年頃からの歴史的な円安進行は、輸出比率の高い資生堂に追い風となりました。2024年も対ドルで一時1ドル=150円台半ばに達する円安となり、海外売上の円換算増や訪日客増加につながりました。もっとも、輸入原材料費や海外拠点の人件費上昇という負担もあり、一概に円安メリットばかりではありません。しかし資生堂は価格転嫁やコスト削減で対応し、大きな悪影響は避けられています。2025年の想定為替は1ドル=145円とやや円高を見込んでいますが、地政学リスクや金利差次第では再度円安基調となる可能性もあります。投資家としては、円安が続けば業績上振れ要因、急激な円高進行は下振れリスクと捉える必要があります。

インフレと消費動向:
世界的なインフレ圧力は原料コストや物流費を押し上げましたが、日本では適度な物価上昇と賃金改善が進み、個人消費は底堅く推移しています。特に富裕層・中間層にとって高級化粧品は「景気に左右されにくい嗜好品」であり、不況期でも一定の需要が見込めます。実際、コロナ禍直後の2021~2022年は化粧品市場が落ち込みましたが、2023年以降はペントアップ需要(抑圧されていた需要の噴出)に支えられ、百貨店コスメ売上が前年超えを続けています。日本政府の旅行支援策や各国の景気刺激策もあり、サービス消費・高額消費へのシフトが顕著です。このように、ラグジュアリー寄りの商品ラインナップを持つ資生堂にとっては恩恵を受けやすい環境と言えます。

一方で、中国や米国の景気減速リスクには注意が必要です。中国経済はゼロコロナ解除後も不動産問題など構造要因で減速感があり、消費マインドも鈍化しています。また米国でも金利上昇による景気減速リスクが残ります。グローバル需要に左右される資生堂にとって、海外景気の波及は引き続き不確実性要因ですが、美容需要は比較的景気耐性があるともされ、投資家にとってはディフェンシブ銘柄的な側面も評価されます。

投資家心理・マーケットトレンド:
2023年から2024年にかけて、海外投資家の日本株への関心が高まりました。低PERや豊富な内部留保、政策支援(東証のコーポレートガバナンス改革要請など)を背景に、日本株全体が見直される流れです。資生堂も例外ではなく、前述した海外ファンドの大口取得はその一例と言えます。「物言う株主」の登場により、資生堂経営陣への緊張感が増し、さらなる株主価値向上策(不要資産の売却、事業ポートフォリオ再構築、自己株買いなど)が促される可能性も株価を押し上げる要因となります。

また1月以降の世界的な株高基調(米ナスダックや日経平均の上昇)によるリスクオンの流れが、化粧品などの消費関連株への資金流入を後押ししました。配当利回りの観点でも、株価下落時には予想利回りが上昇し、長期投資家にとって魅力が増す局面もあったと考えられます。総合的に、マクロ経済環境の追い風と資生堂の改革・成長ストーリーへの期待が重なり、投資家心理が改善したと見ることができます。

7. おわりに – 今後の展望と投資家への視点

資生堂の株価急騰の背景には、一過性の要因による業績悪化が峠を越え、構造改革と市場回復によってこれから収益が再成長するとの期待が色濃く反映されています。2024年12月期は赤字決算となりましたが、その裏側では日本・欧州を中心にブランド戦略が奏功し、本業の実力は着実に向上しています。2025年はコスト削減を最優先課題に掲げ、営業利益・最終利益の黒字回復を目指す転換点の年です。インバウンド需要や国内消費の追い風が吹く中で、この計画が達成されれば市場の信頼は一段と高まるでしょう。

また中国事業も、厳しいながら最悪期は脱しつつあるように見受けられます。中国政府の景気テコ入れ策や消費刺激策が功を奏し、2025年下期以降に同国の高級化粧品需要が回復に転じれば、資生堂にとって大きな追い風となるでしょう。ただし、中国依存度の高さゆえに地政学リスクや競合激化の影響も引き続き注意が必要で、現地ローカルブランドとの価格競争やデジタルマーケティング対応など、課題も残ります。

資生堂は中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」において、2026年に営業利益率12%(コア営業利益率7%以上)を掲げています。この目標が達成されれば現在の数倍規模の利益を生み出す計算となり、株主還元の一層の充実も期待できます。業績回復後に配当性向の引き上げや自社株買いなどの総還元策を強化する可能性も示唆しており、投資家にとっては魅力的な将来シナリオと言えるでしょう。一方で、その実現には改革の完遂と成長軌道への回帰が不可欠であり、2025年に予定されるリストラ費用の計上など、短期的な利益圧迫要因も残ります。

現在の株価水準(2,700円台)は来期予想PERで約100倍と高めに見えるものの、一過性費用を除けば20~30倍程度とも試算され、ロレアルやエスティローダーなど海外大手との比較で依然改善余地が大きいと見る向きもあります。投資家としては、四半期ごとの中国・インバウンド需要の推移、構造改革の進捗、ならびに競合環境を注視しつつ、中長期的に企業価値の向上が実現するかを見極めることが重要です。

結論:
今回の資生堂株の急伸劇は、「悪材料出尽くし」と「未来への期待」という株式市場のダイナミズムを象徴するものです。足元の決算は苦い内容でしたが、その裏で進む改革と市場環境の追い風により、資生堂は再び成長軌道に乗ろうとしています。投資家にとって重要なのは、目先の材料に一喜一憂するのではなく、同社の根幹ビジネスの競争力と構造改革の成果が着実に実を結ぶかを見定める視点でしょう。資生堂が経営ビジョン通り収益力を回復し、アジア発グローバルビューティーカンパニーとして飛躍できるか――その答えはこれからの数年間の歩みにかかっています。その行方を注視しつつ、投資判断をアップデートしていくことが肝要です。

この記事はdeepresearchを使って作成しています。投資は自己責任でお願いします。